日本茶インストラクター
岩田安浩(いわた やすひろ)

1976年生まれの30歳。東京都出身。(株)岩田園の7代目で、今年11月にサッポロファクトリーフロンティア館2階にオープンしたカフェ「茶のしずく」の総合プロデューサーを務める。趣味は読書とスノーボードとコメントしつつも、カフェがオープンしてから2ヶ月余りで忙しく、「今の生活は店と家の往復だけで、家では寝てばっか(笑)。頭の中は、お茶や店のことでいっぱい」という、まさに“お茶漬け”の日々を更新中なのだとか。

http://www.iwataen.com
http://ochacafe.net/

 

 


京都宇治産の上質な抹茶を使用した「抹茶ラテ」。抹茶独特のほろ苦さをミルクでマイルドに仕上げた人気メニュー。テイクアウトもOK

 


「日本茶に親しみを持つきっかけになってもらえれば」と、お茶は1杯ずつ心をこめて淹れる。

 

気になるカバンの中身

カバン
「吉田カバンは頑丈で使いやすいので、いくつも持っています。これは就職した時にばーちゃんに買ってもらったもの。仕事用です」
手帳
「今日やらなきゃいけないこともすぐに忘れてしまうので、手帳にはスケジュールを全て書き込んで管理しています。もう、なかったら大変なことになりますよ(笑)。必需品です」
ミュージックプレイヤー
「音楽は気分転換に。中身はくだらないのが入っているので、あまり追求しないでください(笑)」
手袋
「もともと暑がりなので東京では使わないのですが、札幌は寒いから必要。5年前に札幌に来たときに自分で買ったものです」
バックナンバー

本当の日本茶の味を知ってほしい。

2006 年 11 月、フロンティア館と同時にオープンした日本茶カフェ「茶のしずく」。プロデューサーは、これまで茶葉の販売をメインに経営を続けてきた(株)岩田園の 7 代目だ。

父親、祖父、曽祖父…とさかのぼって代々お茶屋を営んできたというのだから、さぞかし看板を背負う重圧や責任を感じているのだろうと思いきや、意外な答えが返ってきた。

「それは全くないですね、看板を背負うとか、重い責任とかは。そもそも父親までの代までは販売がメインで、会社では今も畑での茶葉生産から工場での加工、仕入れも行っているんですけど、例えば酒蔵のように何か製法を受け継いでいるのとは違うんです。だからこそ自分は父とは全然違うやり方で、やってみようと思ったんです」

そもそもカフェ自体が岩田園では初の試み。販売だけにとどまらず、カフェを開こうと思いたったいきさつは、数年前から巷でほぼ定番となっているペットボトルのお茶の存在が大きい。

「自分からみたら、あれはお茶じゃない(笑)。あくまでもお茶っぽいもの、ですね。濃い味という名目で販売されているものも、ただ苦いだけで深みがない。それが普通になっているのが嫌なんです。“日本茶”なのに別の飲み物になっているということが。だからまずは若い人に、葉っぱで淹れるちゃんとしたお茶の味を知ってほしいと思ったんです」

お茶離れが進む若い人に、日本茶本来の味わいを知ってほしい−そんな想いから茶畑に囲まれた静岡の学校で2年間、現場で茶葉を作りながら学び、その後、日本茶インストラクターの資格を取得した。

だからこそ、誰よりも茶葉を知り尽くしているという自負がある。

「学んだ場所が見渡す限り、茶畑しかない僻地で、おまけに寮生活(笑)。実際に茶葉を触りながら毎日お茶のことばかり勉強して考えていた、という経験が自信に繋がりましたね。だからお茶を飲めば、なぜこの色でこういう味が出るのか、加工した工程まで分かるんです」

 

作法を追求しない“日常用”スタイル。

若い人に気軽に本来の日本茶を楽しんでもらえる場所。それが“茶のしずく”のコンセプトだ。カフェと名が付くだけあって、店内はオープンでカジュアルなスタイル。若い人でもかしこまったり、臆することなく過ごせそうな雰囲気が漂う。

そんななか、畑からお茶を追求したからこそ、自分で淹れるお茶の味は譲れない。だけど由緒正しき伝統や作法には、一切こだわりたくなかった。

「日本茶には抹茶だけじゃなく、煎茶にも煎茶道があるんです。でもね、それを“普段の生活の中で皆さんやってください”と言ったって面倒くさいでしょう(笑)。堅苦しくて難しいんです、それは。だから作法や淹れるスタイルにはこだわりたくないんです」

茶葉にあわせて古来より伝わる美味しい淹れ方、飲み方は確かにある。でもお茶は嗜好品なだけに、温度や味、渋みにしてもそれぞれ好みが違う。「だったらざっくばらんに、それにあわせればいい」という。

「大切なのは日常。昔の日本では当たり前だった一家団欒には、お茶を飲む時間が必ずあったと思うんです。ほっとする時間が。今は時代が違いますが、せめて週に 1 度でもいいから、葉っぱから淹れてお茶を飲む時間を作って欲しいですね」

買ってきたペットボトルのお茶をごくごく飲んで終わり、ではなく、茶葉を急須に入れて、沸騰させたお湯を注ぐ。そこから立ちのぼる湯気でも眺めながら、湯飲みにお茶をいれて飲む。

そんなふうに丁寧にすごす時間が、心のゆとりに繋がるのだと岩田さんは強調する。また、その時間によって、じっくり味わうという感覚も取り戻されるはずなのだ。では、茶葉を選ぶ上でのポイントはあるのだろうか。

「例えば高濃度カテキンは油分の吸収を抑える効果があると注目されたり、緑茶のビタミンC含有率の高さとかね、身体に良い成分で選ぶ人もいるんです。でも、それも好みでいいと思うんです。自分の好みの色や香り、渋みを知ることが先決。まずは茶葉専門店で販売員に相談しながら、好みも分からなければ色々試してみればいいんです」

 

日本茶の魅力を世界に広げたい。

昔の日本では当たり前の日常にあった、お茶という存在。それが希薄になっている世代への架け橋へ。想いはどんどん膨らんでいく。

「今はコーヒーや紅茶とか嗜好品がたくさんあるでしょう。それにつれて、このまま若い人からお茶離れが進んでしまったら、将来は日本にお茶がなくなってしまうかもしれない。それは悲しいことですよね。だからもっと自分たちが頑張らないと」

とはいえ、飲食業は未経験。どうしても不安が拭えない状態のなか、オープン当初は「普通のお茶屋」での対面販売から「カフェ」という飲食業へのギャップにも苦しんだ。

「最初はお茶をつぎたしたり、カップをさげるタイミングひとつ取っても分からないことだらけ。妙な合間にテーブルに行ってしまい、お茶をつぎたした途端にお客様に席を立たれたこともありました。なかでも難しかったのは、お茶を残したお客様に対するフォローですね。初めはどうしていいか分からなくて悩みました」

販売から一転、全くの畑違いである飲食業という壁。それを乗り越えるきっかけも、対応が分からずに悩んでいたのと同じく、お客の反応だった。

「お茶を淹れて運んだ後、お客様の表情を見ていればおいしかったかどうかすぐに分かるのが、販売とは大きく違う点。特に普段、家でお茶を飲まないという方からおいしいと言われた時は、カフェをやっていて良かったなと思える瞬間ですね」

お茶の味わいを知ってもらう方法は、何もドリンクという形だけではない。“茶のしずく“では、茶葉や粉を使ったスイーツでの提案にも積極的だ。例えば抹茶ソフトクリームや抹茶あんみつ、抹茶パフェなどなど。

「味を知ってもらうには甘味からでもいいと思っています。実際、新鮮な抹茶を使って店で原料を作っているので香りや苦味、濃さなど、口にきちんと残る味わいになるよう気を配っています。カフェをやってから初めて気づいたのですが、お茶離れが進んでいるのは若い年代だけではなく、意外と年配の世代にもいるということ。新たな課題ですね」

今後は別の世代に向けた店舗も構想を練っている段階。まだまだやりたいことがたくさんある、という状態なのだ。

「カフェを通して日本茶を知ってもらうと同時に、やっぱりお茶屋ですから、確実に茶葉が売れる販売経路も追及していきたいですね。お茶をベースにして何かとんでもないような、面白いことをしたいんです。海外で日本茶カフェをやるとかね。日本茶の魅力が世界中に広まったら嬉しいです。まずは日本からですね」

 

私のお気に入り

■R25

「東京で毎週欠かさず読んでいたフリーペーパー。経済やビジネス、スポーツ、雑学など幅広い内容が凝縮された上に切り口が斬新。大切な情報源です。北海道では手に入らないので今はネットでチェックしています」

■石田衣良 著「空は、今日も、青いか?」

「そもそも本に興味を持つきっかけとなったのが石田衣良さんの著書。彼の著書はほとんど読んでいるのですが、この本は中でもメッセージ性が強く、読んだ当初、かなり励まされました。人としても興味のある方です」

■ノートパソコン

「今ハマッているのが会員制ブログサイトのmixi(ミクシィ)。遠く離れている東京の友達の様子も分かるし、淋しさも半減しますね。パソコンは友達と繋がったり調べものをしたり情報収集をしたり…、ないと不安な存在」


 

お知らせ

日本茶を気取らず楽しめる専門店

ほうじ茶に煎茶、抹茶や玉露はもちろんのこと、ほうじ茶ラテや玄米茶ラテなど、カフェならではのメニューもずらり。なかでもゼリーやパフェ、ソフトクリーム、あんみつなど、上質な粉から丁寧に作る抹茶の甘味がオススメ。 販売用には、土や茶葉の様子を確認した“生産者の顔が見える”茶葉を14種類揃える。「近いうちに、お茶にあうランチも出したいと思っているので楽しみにしていてくださいね」。岩田さんに直接、茶葉を選んでもらいたいという方も、ぜひ足を運んでみて。

茶のしずく
札幌市中央区北1条東4丁目サッポロファクトリーフロンティア館2F
10:00〜20:00(LO19:30)
問合せ/011-231-3335(直通)

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【編集後記】

お茶の固定概念を外すお茶屋。

 ペットボトルのお茶はお茶じゃない。本来の味を知るお茶屋としては当然だろうなと思わせるコメントからスタートしたインタビュー。けれど、次の言葉には度肝を抜かれた。

お茶を淹れるスタイルは適当でいい。てきとう?と一瞬、耳を疑った。もちろん、良い意味での適当である。岩田さん曰く、「お茶を堅苦しいものと思ってほしくない」という理由に基づく返答なのだ。

温度なんて好きな温度でいいのだという潔さと、その人にあった淹れ方、飲み方で美味しければ、それでいいじゃないかという考え。そうきっぱり言い切る態度に清々しささえ、感じた。

確かに正しい作法を通らないと分からない深い味わいや、趣きもあるだろうと思う。そこだけの世界、楽しさも。けれどただ日常で楽しむだけなら、そんな堅苦しさはいらないよね、というカジュアルな考えには深く共感する。

古くからのしがらみや固定概念を外したことで分かる新たな魅力には、注目すべき点が多いことも頷ける。

一般的なお茶屋が提案するであろう、茶葉ごとに異なる、お湯の温度や淹れ方、蒸らし方、作法などをスパンと弾き飛ばしたところに、岩田さん独自のフロンティア精神を感じた。

取材・文/金繁 美由紀