
創成イーストをはぐくむ人
一般社団法人相互支援団体かえりん 星野 恵さん
投稿日:2025.9.3
企業・団体
おさがり交換会「くるりん」やぷらっとBOOKなど様々なファミリーコミュニティを運営している一般社団法人相互支援団体かえりん代表の星野 恵さんにお話を聞きました。
~はじめに~
今回は、創成イーストエリアにて、シェア型書店「ぷらっとBOOK」を運営し、先日サッポロファクトリーでもおさがり交換会を開催頂いた星野さんにお話を伺いました。子育て世代が抱える悩みの一つに、子供服の問題があります。成長の早い子どもたちの服は高価なのに、すぐにサイズアウトしてしまいます。そんな課題に向き合い、独自の解決策を生み出している取り組みがあります。
~おさがり交換会「くるりん」の原点~
「北海道民ではなかった私にとって、札幌の洋服代は想像以上でした。特に冬服は本当にお金がかかる。それに、私たちの世代ではおさがりは当たり前だったのに、『欲しいけどもらえない』という声をよく聞きました」
子育ての難しさについても率直に話してくれました。「仕事なら先輩がいて教えてもらえるし、ある程度の正解がある。でも子育ては違う。分からないし、教えてもらえないし、正解もない。みんながそつなく親をやっているように見えるのに、自分はなぜこんなにできないのだろうという自己否定が多くて」
そこから生まれたのが、おさがり交換会でした。「『助けて』って言えないことが問題なら、『助けて』って言えるようになればいいですが、ハードルが高い。だったら助かっちゃう仕組みを作っちゃえばいいのではと思いました」
↓おさがり交換会「くるりん」の様子(@サッポロファクトリールーム)
~おさがり交換会とは~
「参加者の方に700円を支払っていただき、30Lぐらいの袋に詰め放題でお下がりを持って帰ってもらいます」と星野さん。「値上げした方がいいってずっと言われていましたが、500円でやりきっていました。でもアンケートに『700円になっても参加します』『1000円でも参加します』という意見があったので、値上げに踏み切りました」
おさがり交換会の特徴は、直接的な交換ではなく間接的な形をとっていることです。「お互い助け合う仕組みみたいな感じです。隣に醤油貸してって『いいよ』みたいな、ご近所付き合いの感覚。お互い様だよねっていう方が楽になるし、子供も気軽に育てられる」
現在では札幌を中心に道内各地で開催され、累計8,000名が参加、50回以上開催されているとのことです。
~シェア型書店「ぷらっとBOOK」の挑戦~
もう一つの取り組みが、シェア型書店「ぷらっとBOOK」です。「32cm×32cmの棚を136人の方でシェアして運営する書店です。オーナーさんが思い思いの本を並べて、書店としてオープンしてもらっています。本屋のアパートみたいな感じで、ぷらっとBOOKに来るだけで136の書店をはしごできる素敵な本屋です」
この仕組みは福岡で見かけたシェア型書店からインスピレーションを得たものだそうです。「福岡へ帰省した時に面白そうなので見に行きました。すごく寂れた商店街の一角なのに、そこだけ賑わっていた。本棚を見ると、背後に人の顔が飛び出してくるような、どんな人なのかが想像できる個性的な書店に感動して、これは札幌でもやりたいと思いました」
棚オーナーは様々な方がいて、圧倒的に女性が多く、40〜50代の会社員が中心だそうです。「オープン時点では129区画でしたが、40日ちょっとで全て埋まりました。「棚を借りるだけで本屋の存続に寄与することができるので、社会貢献もしつつ、自分のやりたいことの自己実現もできる。一石三鳥ぐらいじゃないかと思います」」
~活動の背景にある思い~
これらの活動の背景には、今までやってきた”子育て支援”に対する強い思いがあります。
「産後うつで自ら人生を閉じる方もいらっしゃるのが現代の大きな問題です。命の問題なんですよね。公的な支援で言うと、シングルマザーなどの方への支援はあるけど、一般家庭への支援ってあまりないんですよ。社会のピラミッドで言えば、中間層が分厚いはずなのに、その層に届けるものがあまりない。この問題が、産後うつや育児ノイローゼに陥ってしまう子育て世帯を多く生み出しているということはあると思います。
それを補完するためにも、様々な団体が子育て支援をしていますが、運営費をどう捻出するかという課題があります。支援の場所を持つことが支援の幅を広げますが、なかなか難しいのが現状です。それを持続可能な形にもっていくことが理想的です。」
~創成イーストエリアの人とのかかわり方について~
こうした活動を続ける上で大切にしていることについて、星野さんは詳しく語ってくれました。
「活動には金銭的な報酬と心の報酬があると思っています。金銭的な報酬はなかなかマッチさせるのが難しいけど、心の報酬は渡せることができる。友達作りが難しい年代になると、活動を通じて仲間ができることも大事にしています」
人とのつながりを作る上で、星野さんは「感謝の気持ちを行動で示す」ことを重視しているそうです。
「感謝と応援は行動だという持論があります。言葉も重要ですが、できれば行動で示したい。何かをやっているなら、その場所に行くとか、SNSでシェアするとか、誘われたら基本的に受けるようにしています」
また、人との関わりにおいては「相互支援」で、「お互いが支え合う」ということを大事にしています。
「人間関係って、与えるばかりだと疲れるし、もらうばかりだと申し訳なくなる。でも、お互いに助け合える関係だと、心理的な負担が少なくなる。おさがり交換会もそうですが、直接的な『あげる・もらう』の関係ではなく、間接的に循環する仕組みにすることで、気兼ねなく参加できる場になっています」
さらに、人との出会いを大切にする姿勢も印象的でした。
「人との出会いは宝だと思っています。どんな人とも何かしらつながりがあって、その縁を大切にしたい。会った人の話をしっかり聞くようにしています。一期一会を大切にすることで、思いがけない協力が生まれることも多いです」
~今後の取り組み「サーキュラーエコノミー」~
今後の展開として、「サーキュラーエコノミー」という概念に基づいた活動を進めていくそうです。「シェアリングエコノミーは個人の余剰物をシェアしてお金にする経済活動ですが、サーキュラーエコノミーはそれ自体がお金を生む仕組みにはならなくても、ものが循環することで経済が動くという考え方です」と説明してくれました。
「就労支援事業所B型と提携して、おさがりでの回収して仕分けをする仕組みを5月からテスト運用していて、もうすぐ本格始動します」
~さいごに~
おさがり交換会とぷらっとBOOKの取り組みは、子育て支援という視点から始まり、循環型社会の実現という大きなビジョンにつながっています。物を循環させることで、環境問題の解決、子育て世代の支援、福祉施設の収益確保という三つの課題に同時にアプローチする試みは、これからの社会に必要な視点を提供してくれます。
しかし、星野さんの活動の根底にあるのは、何よりも人とのつながりを大切にする姿勢です。「相互支援」の精神で支え合い、感謝の気持ちを行動で示し、一期一会の出会いを大切にする。そうした人間関係の構築が、持続可能な社会活動の基盤になっているのでしょう。
「新しいものじゃなくて、既存のものを使って循環させていくことができるのは最高だと思います。でも、それを支えるのは結局、人と人とのつながりなのです」
その言葉には、持続可能な社会と豊かな人間関係を同時に築いていこうとする強い意志が感じられました。
プロフィール
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星野 恵
取材先:ぷらっとBOOK
所在地:札幌市中央区南4条東3丁目19
営業時間:13:00~17:00
定休日:不定休
アクセス:地下鉄東西線 バスセンター前駅7番出口 徒歩6分公式サイト:https://kaerin.or.jp/