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日本清酒株式会社 村山恵介さん

投稿日:2025.12.16

企業・団体

今回は、札幌で最も長い歴史を持つ酒蔵・日本清酒で営業を担当する村山恵介さんをはじめ、企画部の金野淳也さん、曲菜月さんにお話を伺いました。時代とともに変化を遂げてきた日本清酒の歴史から、創成イーストに根差した取り組みへの思い、その裏にある葛藤まで深掘りします。



札幌で150年。日本清酒の歩み

ーはじめに、日本清酒の歴史を教えていただけますか?

金野さん:私たちの会社は明治5年に「柴田酒造店」としてはじまりました。昭和30年代には清酒出荷量が全国トップ10に入るほどの規模で、ビールや雪印、キッコーマンなどの取次業も手掛ける、全道に支店を持つ大企業でした。かつては普通酒を大量生産していましたが、時代の変化に合わせ、現在は取次業を切り離し、高品質なお酒づくりへと舵を切っています。

ー2023年4月に完成した「新蔵」も、その変化の表れでしょうか?

金野さん:そうですね。老朽化が進んでいた旧工場を立て直し、新蔵を建設しました。

大量生産をしていた名残で、旧工場は生産能力が2万石に対し、実際の生産量は3,0004,000石ほどでした。そこで新蔵では、生産能力を1,000石程度に抑え、純米酒など付加価値の高いお酒を少量生産する方針に切り替えました。昔はどの家庭にも一升瓶がありましたが、今は四合瓶ほどの小さいものが好まれていますよね。そうした時代の流れとともに、私たちの会社も変わっていきました。

地域と会社をつなぐ__営業マン村山さんの葛藤と挑戦

ー会社の在り方が大きく変わったのですね。営業を担当する村山さんから見て、昔と今で社内の雰囲気は変わりましたか?

村山さん:まるで別の会社のようですね。私が入社した平成10年頃は、まだ取次業が中心だったので、酒蔵に入るというより、商社に就職したという感覚の方が近かったんですよね。実は「千歳鶴」の名前は知っていたけれど、本社が札幌にあることも当時は知らなくて。(笑)営業のスタイルも変わりましたね。

ーそうだったんですね。どのように変化したのですか?

村山さん:当時はとにかく目先の数字を追いかけることに必死で、朝から何十件も取引先を回る日々でした。営業だけでも百数十人おり、成果が求められる環境の中で、常に高い緊張感がありました。

現在は、会社としてもちろん利益も大切ですが、地域との繋がりを重視するようになりました。うちのお酒の価値を理解してくれる北海道の酒屋さんとお付き合いしたり、地域のイベントに参加して少しずつ信頼のパイプを太くしていく。そうやってうちのお酒の魅力を伝えていくことが大切だと思うようになりました。

ー地域密着の方向に変わったのですね。創成イーストではどのような形で関わってきたのですか?

村山さん:以前から地域のお祭りなどには参加していたのですが、方針転換してから深く関わる最初の取り組みとなったのが、創成イーストにある飲食店、KATOSHOTENさんと進めた地区限定酒「お東さん」の商品開発です。実は前に、うちの酒蔵で自主的にイベントを開催したのですが、実際やってみるとさまざまな問題が発生し、続けることが難しくなったんです。その時に、自分たちだけでやることの限界を知りました。

それからしばらくして、たまたまKATOSHOTEN店主の加藤さんとの間で「お東さん」の構想が生まれました。 地元の人と一緒にお酒をつくる取り組みは、限定1,000本という小ロットながら、会社としても初めての挑戦でした。商品化が実現すると、地域外の酒蔵や酒屋さんからも多くの反響をいただき、取り組みの意味を改めて実感しました。そこから商業施設のルトロワにて日本酒のイベント開催など、地域の人たちとつながりながら、うちのお酒を知ってもらう取り組みを少しずつ広げています。ただ、地域との関わりはまだ模索中でもあります。

ーそうなんですね。模索中とのことですが、地域と関わる上で悩みや難しさはありますか?

村山さん:創成イーストという地域がどんどん盛り上がっていく中で「自分たちには何ができるんだろう?」と自問自答しています。うちは創業150年を超える老舗ですが、地域との関わりという面では経験も実績もないので、その点に難しさを感じています。

また、会社ですから利益も無視はできません。例えば、限定酒をつくるのも生産数によってコストが変わりますし、イベントもすぐに利益や効果が出るわけではありません。もちろん個人としては、ファンを増やし、将来、地元の人に飲んでいただけるような活動をしていくことが大切だと思っています。しかし、未来のことを数字にするのは正直、簡単ではありません。自分がどう会社と地域の人を橋渡しするか、ここに葛藤や歯がゆさを感じています。

ー村山さんがそこまで悩み、仕事に向き合っている奥には、どんな思いがあるのですか?

村山さん:札幌って、あまり地元のものにこだわりがないまちだと思うんです。都市部というのもあり「おらが町」という感覚が少ないというか。それは日本酒の選び方にも現れていて、北海道って地元のお酒の消費が2割、道外のお酒が8割なんです。これって東北や新潟などの地域と比べたら、真逆の比率なんですよね。

ーそんなに違うんですね。知りませんでした。

札幌ではとくに、珍しいお酒やのついたお酒が好まれます。作家の村上春樹さんの本の中に「うまい酒は旅をしない」という言葉があります。それは本当にそうで、まずは地元のお酒を味わってほしいという思いがあります。昔は大きなタンクでお酒を保存していましたが、今はタンクではなく、作ったらすぐ瓶詰めをします。その新鮮で美味しいお酒を、一番近くの創成イーストや札幌の人に飲んでほしいですね。地元の食材とうちのお酒を一緒に味わい、このまちならではの味を楽しむ。こうした文化も創成イーストから広げていきたいです。

ーとても素敵な思いですね。今後の活動の展望はありますか?

村山さん:創成イーストの人を対象にした勉強会や試飲会などを、月に1回、少人数でもいいので開催してみたいですね。こうしたイベントを重ねることで、酒蔵がここにあることや、うちのお酒の美味しさを知ってもらえると考えています。そして5年後10年後、乾杯の場にはいつも「千歳鶴」がある、そうなってくれたら嬉しいです。

ーありがとうございます。最後にこの地域の人に向けてのメッセージをお願いします。

村山さん:うちの会社だけで完結するんじゃなく、まちの人と一緒に盛り上がりたいという思いがあります。私たちはそういうつながりを今、模索中です。これまでの縁も大事にしながら、もっとみなさんと縁を広げて、一緒になってこのまちを盛り上げていきたいです。

プロフィール

  • 村山恵介さん

    取材先:日本清酒株式会社
    所在地:札幌市中央区南3条東5丁目2番地
    営業時間:10:00~18:00(千歳鶴 酒ミュージアム)
    定休日:年末・年始
    アクセス:札幌市営地下鉄 東西線「バスセンター前」駅 9番出口より徒歩5分
    電話番号:011-221-7570

    公式サイト:https://nipponseishu.co.jp